バリバリ伝説2・・・  其の弐

【失われた時をさがして】

 翌年。鈴鹿での事故から数ヶ月後、なんとか命はとりとめたが、転倒時の衝撃で脳へのダメージがひどく、なんとほとんどの記憶が喪失!トップ世界GPレーサだったことすら忘れ、再起不能とまで言われていた。
 最愛の歩惟との新婚生活もつかの間、未だに、歩惟や友人、レーススタッフのことを思いだすもことなく、まだ半信半疑の郡。しかしなんとか郡の一時退院の日が訪れた。
 友人の比呂とみいはひそかに郡の記憶を取り戻すため、ある秘密の作戦を考えていた。その頃比呂は、みいとの結婚も決まり、みいの親父さんと、イチノセレーシングクラブの協力もあり、念願のバイクショップを開店していた。はじめ比呂は、カワサキ専門店で開店したかったが、HRC梅井のおせっかい(笑)もあってHRCサービスショップ「ホンダプロス」店として、郡の人気もあって繁盛していた。
「よぉ、郡。ちょっとこっち来ないか。」
退院した郡を店につれてきた比呂は、店の奥の整備部屋に郡を案内した。
そこにはカバーがかかった一台のバイクがあった。

「開けて見ろよ。」
郡は言われたままカバーを取った。
「!?」
そこには、郡が昔乗っていたのとまったくうり二つのCB750Fがあった。
「苦労したんだぜ。今時、こんなによく回るCBなんてめったにないんだ。郡の昔の写真見て、パーツまで探して組んだんだぜ。」
「これに乗っていたのか‥。」
「さぁ、郡へのみんなからの退院祝いだ。入院してから体がなまっていただろ、少し乗ってこいよ。」
そういうと比呂は、なつかしい郡カラーリングのヘルメットを差し出した。
「今じゃ、この店で一番売れているメットだ(笑)。」
不思議と、バイクに触ると郡は昔のままの表情をした。まるで、記憶がもどったかのように‥。
「明日の朝、昔走った峠にこのCBで来てくれ。」
郡は、わけもわからず比呂に言われたとおりうなずいていた。


----------------------------------------------------------------------


「おかえりグン。」「あぁ。」
郡と歩惟は、とりあえず新婚の住まいを郡のマンションにしていた。
歩惟が待つ我が家を、なんとなく心が安らぐもの、本当に自分の部屋なのかわからないままの郡であった。
「今日はパスタよ。」「あぁ。」
郡は、比呂から譲り受けたCBの鍵を眺めながらソファーに寝そべった。
(なんだか、この鍵、なんども握った覚えがあるんだよな。
でも思いだせねぇ。)
歩惟は、明るくは振り舞っているものも、自分すらまったく覚えていない郡の顔をみて、何度も悲しくなり泣き出しそうになった。


----------------------------------------------------------------------

 次の日の朝、比呂に言われたとおり郡は峠にCBでやってきた。
まだ、3月。春の日差しは少しづつ訪れてはいるが、やはり峠の朝は寒い。
「一応、病み上がりの身体だからな、つなぎは着てこいよ。」
レーサでない、あの頃のような姿の郡が、こうしてつなぎを着てCBにまたがっていると、比呂は遙か遠い思い出の日々が蘇るような思いでいっぱいだった。
「軽く走るから、ついてこい!郡。」
不思議と、バイクに乗ることは忘れてはいなかった。たしかに頂点で争っていた頃に比べ走りに「切れ」はないもの、やはり当然のごとながら普通のライダーよりは速く走れる。仮にも世界GPチャンプまでなった男だ。小刻みにコーナーが迫る。身体が勝手に動く。ひらりと交わし、反対に加重。フルブレーキングからスパッと寝かし込み、ターン。やはり郡だ。華麗なフォームはさすが世界GPレーサ。そんな郡の姿を、上の駐車場から見守るみいの姿があった。
「そろそろ行って。」
みいの後ろから、一台のバイクが走り出した。
クォォォン!クォォォン!クォォーン!
「!?」
 郡たちの後ろにその大きな車体のバイクはピッタリついた。
そのバイクに気が付いた直後、次の大きなコーナーのインから、ものすごい勢いで郡たちを抜いていった。

「カタナだ!」比呂が叫んだ。

銀色のGSX750S、通称カタナ。
(どこかで見覚えがある‥。)
郡は、その後ろ姿にある一つのことを想い出した。
(とにかく、あのバイクはなんとかして抜かなければならない。なぜだろう‥。)
そのカタナ使いは、大きな車体をいとも軽く切り返す。
無駄のないライン。ギリギリまでのブレーキング。
郡「ちくしょう!速ぇーぜ。」
確かに記憶を失っているとはいえ、世界GPレーサ。まだギコチないが、とにかく走れる。
比呂「ひやぁー、やっぱり速ぇーや。」
比呂がギブアップのサインを出して、「あとは任せる。」の一言でペースダウンをした。
クォォォン!クォォォン!クォォーン!
カタナを追う郡のCB750F。しかし、いつになっても追いつけない。
かなり無理をして追う郡。エンジン音が大きくなる。CBのリアが大きくスライドする。カタナはその姿をあざ笑うかのようにウィリーして次のS字をクリアする。壮絶なバトルは終わらない。そして‥、交通量が多くなって、朝が来る。
郡のCBがあきらめたように減速する。後ろから比呂のカワサキがパッシングする。
「郡、そろそろ危ないから戻るよ。」
郡と比呂は、その朝の峠を後にした。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック